人間界での仕事を終えた、ある日の雨が降る帰り道での事―


ふと電柱の影に箱を見つけ、グレルはその箱が気になってしゃがんで覗いてみた。



「…ねぇウィル、見て…?」


一緒に仕事をしていたウィリアムは、グレルに呼ばれて彼の近くに来た。


「どうしました?」

「箱の中に、ワンちゃんがいるの。」


グレルはそう言いながら箱の中にいた、長い間雨に打たれていたのか、体温を奪われているらしく、寒さで震えて息もたえだえの小さな、薄汚れてはいるが、白いと思われる毛色の仔犬を抱き上げた。



「…かなり衰弱していますね…。
ひとまず、これで身体を拭いてあげなさい?」


ウィリアムは自らのハンカチをグレルに差し出した。


「…捨てられたのかしら…?
まだこんなに小さいのに可哀想…」


グレルはハンカチを受け取り、仔犬の身体を温めるように、でも優しく拭いてあげた。


「…ウィル…
…お願い…、このコを…、アタシたちのおウチに連れて行って…、アゲたいの…」


彼は懇願するように隣の相手を見上げた。


「しかし…、その仔犬の命はもう…。

…貴方にもわかるでしょう?」


困ったように眉間にしわを寄せながら言う相手を見上げたまま、彼は悲しげな顔をして仔犬に視線を移した。


「…わかってるワ、でも…」


すると仔犬は薄く目を開けて彼と視線を合わせると、指をペロリと舐めた。


「アッ…」


彼が小さな声を漏らすと同時に、仔犬はガクンッと首を下ろして、そのまま動かなくなった。


「―――ッ!!!!」

「…逝かれてしまいましたね…」

「…ふえ…」


グレルは涙をポロリ、と流した。


「…貴方が泣いたら、先ほどの仔犬は成仏出来なくなるではないですか、まったく…」


そう言いながら、ウィリアムは仔犬ごとグレルの身体を抱き寄せた。


「…っく、ひうっ…、生ま…かわっ…、また…、会え…、ね…?」

「ええ、それまで少しの間の別れです。
別れは出会いの始まり…、と言うでしょう?」

「…ン…」


(…お墓、作ってあげましょうか。)
(うん……、お花も添えてアゲルの……)




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